触れたいのに、触れられない。そのもどかしさが原動力に
触覚ディスプレイの開発について教えてください
触覚ディスプレイとは、物体に触れた際の触感を再現する装置です。本研究では、形状・硬さ・手触りを表現するために、MR(磁気粘性)流体の特性を活用した触覚ディスプレイを開発しました。MR流体は、磁場に応じて液体から半個体へと瞬時に変化する特殊な流体であり、その可変性を活かすことでこれまでのデバイスでは再現できなかった、よりリアルな触感の再現を目指しています。さらに、磁石の強さをコンピュータで制御することで、さまざまな形状や硬さを表現。たとえば、指を滑らせた際に感じる凹凸や、押し込んだ際の硬さなどを再現したいと考えています。

研究を始めようとしたきっかけは?
もともと、人間の五感を拡張する技術に興味がありました。現在のコンピュータは視覚と聴覚での情報伝達が主流ですが、触覚や嗅覚、味覚にもアプローチすることで、よりリアルで豊かな体験を提供できると考えたんです。たとえば、ネットショッピングで「思っていた触感と違う」という経験は誰しもあると思いますが、それは文字や画像などの視覚情報だけでは不十分だからです。
なるほど。五感のなかでも、特に触覚に着目されたのはなぜでしょうか?
美術館で展示物に触れたいのに触れないもどかしさや、VR体験で視覚はリアルなのに触感が伴わない物足りなさを感じていました。そこで、触覚を再現するデバイスを作りたいと思い、高校生の頃からMR流体を使ったアイデアを温めていたんです。
高校生時代から! すごいですね。開発にあたって苦労された点はありますか?
やはり資金面ですね。MR流体や電磁石は高価なので、バイト代でまかなうのは難しく……。そんな矢先、新雪プログラムを知り応募しました。
IT人材育成を目的とした新雪プログラムに採択
新雪プログラムは、北海道在住の25歳未満のITに関係した開発者、デザイナ、アーティストの発掘と育成を行う事業です。資金援助だけでなく、専門家によるアドバイスや他のクリエイターとの交流の機会も提供してくれます。また、全国規模の視点でクリエイターの成長を支援しつつ、地域社会におけるIT人材の育成にも力を入れています。
新雪プログラム(北海道ITクリエータ発掘・育成事業)とは? 一般社団法人新雪が、経済産業省 未踏的な地方の若手人材発掘育成支援事業費補助金「AKATSUKIプロジェクト」の支援を受け、実装するプロジェクトです。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の未踏IT人材発掘・育成事業をモデルとし、北海道在住の25歳未満のITに関係した開発者(プログラマー)、デザイナ、アーティストの発掘と育成を目的としています。 |

多分野の専門家やクリエイターと、知と創造が交わる場
ほかのクリエイターとの交流はいかがでしたか?
非常に刺激的でした。ITに限らず、化学や物理、人文科学など多分野の参加者と意見交換するなかで、自分の研究に新たな可能性を見いだせました。定期的に行われる会議では、研究の進捗や課題を共有し、他の参加者や専門家から具体的な助言を受けることで、行き詰まっていた問題を解決するヒントを得ることもできました。
新雪プログラムに応募して良かった点は?
専門家からの実践的なアドバイスやフィードバック、クリエイター同士の交流、そして資金面での支援が大きな助けとなりました。特に具体的なフィードバックは、自分の研究の課題や方向性を見直す貴重な機会になりました。さらに新雪プログラムでは、多くの分野の専門家に繰り返し相談できる環境や、異なる視点を持つ参加者との出会いがあり、大学内だけでは得られない貴重な学びと成長につながったと感じています。
感覚拡張の新たな地平を目指す
今後の展望について教えてください
現在開発しているデバイスを、まずは手のひらサイズの大きさまで拡張し、さらに表現力を高めることを目指しています。たとえば、より細かい硬さや質感を表現できるように改良し、実用性を高めたいと考えています。
その後の目標としては、大学院へ進学して研究をさらに深化させ、世界最高水準の研究が行われている海外大学への留学も視野に入れています。そこでは、触覚の研究だけでなく、嗅覚や味覚といった他の感覚の拡張技術にも挑戦し、まだ誰も経験したことのないような新しい世界観を提供できる技術を創り出したいですね。
壮大な目標ですね! それでは最後に、読者に向けて何かメッセージをお願いします。
私の研究はまだ始まったばかりで、これから乗り越えるべき課題も多くあります。しかし人間の感覚を拡張する技術を通じて、未来をより豊かで可能性に満ちたものにできると信じています。これからも試行錯誤を続け、社会に貢献できるよう努力していきますので、ぜひ応援していただけたら嬉しいです。一緒に新しい未来を切り拓いていきましょう!
※所属・学年などインタビュー当時の情報となります。