AI技術がこれからの医療・健康を支える
越野(システム情報学科): 私の専門は医用画像工学です。医用画像とは、健康診断でも馴染みのあるX線画像もその一つですが、私の研究では、がん検診などで撮影する機能や代謝情報を数値化するPET画像を対象とし、研究を行っています。
この画像を使って、できるだけ少数のデータで正確な診断支援を実現するため、AIを使った診断技術の開発を目指しています。
佐藤(医療情報学科):私は脳・心臓疾患に対する予防医学がメインテーマです。病気を発症する方が持つ因子を調べる上で、どのようにAIを活用していくかを検討しているところです。例えば、健診で得られた心電図から、将来的な心臓疾患や突然死の予測が得られないかなど、これからの医療がAIと切り離せなくなるのは確かだと思いますね。
10年後には病気の診断をAIがする時代になるのではと考えていますが、実現するには何が必要でしょうか。
越野:法制度を整える必要がありますが、まずはAIが医師の補助的に、医学知識や医師の経験則に基づいた思考プロセスを説明できる「信頼できるAIの実現」が重要だと思います。医師が診断する際には検査結果や症状だけでなく、既往歴や家族歴、これまでの臨床経験など様々な情報を総合的に活用しています。なぜそのような診断を下したのかという説明ができないと、患者さんが診断結果に納得し、治療に臨むことができませんから。
医学と工学、AI時代にタッグを組むべき理由

越野:これまで診断支援技術は、病気になった後のことを対象に発達してきたので、病気になる前の段階で、できるだけ早く予兆を見つける予防医学の研究はとても興味深いです。医療機関での検査項目やライフログ(日々の活動記録)のデータを活用した予防医学への貢献も研究していきたいと思っています。また、医療業界も特に地方で人手不足が進んでいるので、予防DX(デジタル技術の活用)は大きな課題の一つです。
佐藤:研究を進める上で、医師の立場からはパラメータとなる患者さんのデータを数多く集めることはできるのですが、料理と同じで、材料が揃っていてもどのようなレシピで調理するかによって、最終的に出来上がるものが変わってくるんですね。どのアルゴリズムを使うべきか、あるいはAIを使うべきか、というレシピの観点では、越野先生をはじめとするシステム情報学科の先生方のシステムやAIに対する知識をぜひ、お借りしたいと考えています。

2050年に向けて、医療はどのように進化する?
越野:センサーの小型化・省電力化・高性能化と、収集した膨大なデータを効率よく正確に利用できるICTの発展が必要ですが……
住宅や街など生活空間全体がセンサーとなるのではないかと考えています。それが実現すると、ライフログをリアルタイムに取得し、人間を見守るAIや、ライフログに基づいてサーバー空間に再現した一人ひとりのデジタルツインで、日々の体調を管理するAIなどが出現するのではないでしょうか。
デジタルツインとは? デジタルツインとは、私たちが生活する現実世界(物理空間)からIoTを活用してリアルタイムにデータを取得し、そのデータをもとにサイバー空間上現実世界の”双子”のようにリアルに再現する技術のことです。サイバー空間でシミュレートし、その結果を現実世界へフィードバックします。 |
佐藤:AIやビッグデータの活用により、個々の遺伝情報や生活習慣に基づいた精密医療が標準化され、疾患の予防や治療がより効率的かつ的確になると思います。逆にAIが苦手とする感情を理解したり、患者さんの経済的な事情を検討したり、人間味のある部分はコメディカル(診療を支援する人)がより重要となってくると思います。
また、高齢化のスピードも増す中で、健康寿命や介護の問題においてはやはりDX化が非常に重要です。ロボット技術でリハビリの負荷を減らしたり、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで表情や会話から認知症の傾向、健康上のデータから生活習慣病の対策など、データの活用で技術革新がどんどん進むのではないかと思います。
未来の情報大の学生へ
越野:AIやICTはどんどん進化しています。卒業後は技術者や研究者、ビジネスとして技術を使用する人などさまざまな立場に分かれると思いますが、どの立場であってもAIやICTを適切に利用して、たくさんの人を幸せにする、持続可能な社会を実現してほしいと願っています。柔軟な発想と大学での学びを結びつけて、未来の社会や人々を幸せにしてみませんか?
佐藤:自分の体のことを知ることで、各臓器の機能を知り、将来の自分が健康に過ごすために何をするべきかを考えることができるようになります。一番身近なところから病気の予防について考えるのはとても面白いですよ。AIやDXの知識が必須の時代に、情報大は最適な学びの環境だと思います。自ら課題を見つける力を、一緒に学びながら身に付けましょう!
※所属・役職などはインタビュー当時の情報となります。