なぜテーマパークは混雑するのか?
仮想のテーマパークで人の行動を分析する研究
IoT技術と社会シミュレーションの融合を目指す
私の研究分野の一つが、いろいろなモノをインターネットにつなぐ「IoT技術」で、もう一つが、現実の社会をコンピュータ上に再現して分析する「社会シミュレーション」です。この二つを融合させることで、世の中を理解し、そこで起きている問題を解きほぐし、解決策を導き出し、より良い社会を実現したいと考えています。
いま集中的に取り組んでいるのが、社会シミュレーションです。そのなかで主に「テーマパーク問題」を扱っています。
![]() | IoTってなに? IoT=Internet of Things(インターネット・オブ・シングス)とは、「モノのインターネット」を意味します。 家電やゲーム機、車など、身の回りのあらゆる「モノ」がインターネットにつながる仕組みのことです。 例えば、バスの現在地がスマホでわかったり、紛失したイヤホンを探せたりするなど、モノがネットと通信することで 私たちの日常をより便利に変えてくれます。 |
混雑を理解するためのテーマパーク問題
テーマパーク問題というと、テーマパーク業界が直面している集客や運営コストなどの課題が思い浮かぶかもしれません。しかし、社会シミュレーションにおけるテーマパーク問題とは、テーマパークに限らず、いろいろな「混雑現象」を理解するためのツールです。
例えば、こんな先行研究があります。
テーマパークにA・Bという二つのアトラクションがあるとき、どちらかに来場者が集まりすぎると混雑が発生。
緩和するために、「ただいまAが混んでいます」という情報を発信すると、Bに人が集まる。
そこで、「いまはBが混んでいます」と伝えると、今度はAに人が集まる。
このように、人の流れが行き来することで混雑が解消されずに続いてしまう現象を「振動現象」といいます。これは実際の社会でも起きています。リアルタイムで混雑情報を知らせても、人の流れが振動するだけで、混雑そのものはなかなか解消されません。
では、来場者をちょうどいい具合に分散させるにはどうしたらいいのでしょうか。
それは、「来場者は滞在時間を最⼩化するプランを常に選びつつ、全体の滞在時間も減少させる方法」です。
①未来の混雑予報を提供
②情報をもとに来場者は、自分にとって最適なプラン(アトラクションをめぐる順序)を決めて知らせてもらう
③来場者のプランを集約して混雑予報を更新
この方法のいいところが、個々人が常に自分にとっての最適なプランを選びながら、テーマパーク全体としては混雑を緩和できること。つまり、「空いているアトラクションに行ってほしい」というテーマパーク都合を押し付けることがないので、来場者の満足度を保てるのです。
「個人」にとって「いいこと」は、「全体」にとっても「いいこと」なのか
ただ、優れた先行研究にも弱点があります。個々人の最適を選択していった結果、全体としてはうまくいかない「ジレンマ状態」と呼ばれる事態が起こりえるのです。
そこで、いま、私が考えているのは——。全体にとっての最適なプランが、来場者一人ひとりにとっても最適なプランになっているとしたら、混雑情報でも混雑予報でもなく、それぞれに最適なプランを提示すればいいですよね。そんな理想的なプランがあるのかないのか、そのプランが成立しないのはどんな状況のときなのかなど、理論上は何が起こりえるのかを調べたくて、研究を進めています。
社会課題にマルチエージェントシミュレーション
仮想のテーマパークをつくって実験する
私の研究のアイデアを検証するにあたり、実際のテーマパークは使えません。では、どうするのか。コンピュータ上にテーマパークをつくり、来場者に行動してもらって実験するのです。この仮想のテーマパークや来場者を「モデル」、モデルを使って行う実験を「シミュレーション」といいます。
マルチなエージェントが動き回ると予想外の事態に!?
シミュレーションにはいろいろな方法がありますが、私が使っているのは「マルチエージェントシミュレーション」です。マルチは「複数の/多数の」、エージェントは簡単にいうと「人」を意味します。つまり、たくさんの人が、テーマパークでどんな行動をとるのかを調べる手法が「マルチエージェントシミュレーション」なのです。
個々のエージェントは、「このアトラクションに乗りたい!」という意思をもち、自律的に行動します。なので、複数人が同じアトラクションに同時にアクセスすると混雑が発生したり、その混雑がエージェントの行動に影響を及ぼしたりという事態が起こります。それぞれの意思決定や行動がお互いに影響しあうことを「相互作用」といいい、この相互作用が連鎖的に続くと、ときには想像もしなかった現象が発生することも。
シミュレーションは世の中を知る手がかり
シミュレーションで具体的に何をしているかというと、膨大な計算です。例えば、テーマパークのアトラクションや待ち行列、エージェントの意思決定や行動を数式で表し、それを計算して、最適なプランを割り出していきます。
このときのポイントは、エージェントを賢くしすぎないこと。「アトラクションAからBへは最短経路を移動する」というシンプルなルールで動くように設定します。複雑にしすぎると、コンピュータといえども計算が追いつかないのです。
ただ、ルールを単純化しても、エージェントが複数いれば、想像もしないことが起こります。どんなルールが、どんな現象を招くのかがわかると、逆に、現象からルールを推測できますよね。それは、世の中を理解することにつながると思うのです。世の中はすごく複雑なので、それを解きほぐすのは難しく、また、目の前の現象をただ見ていても要因はわかりません。でも、シミュレーションによって、要因を突き止められるかもしれない。それが、マルチエージェントシミュレーションの面白さです。

イベントの混雑にも災害の避難にも役立つ
マルチエージェントシミュレーションは、テーマパーク問題のほかにもいろいろと活用できます。以前、産総研(産業技術総合研究所)にいたときは、花火大会での最適な分散退場を考えました。また、災害時の避難経路を考えるための「逃げ道シミュレータ」というツールを開発しました。いまは、社会問題化しているオーバーツーリズムの解決にも使えると考えています。
地下街で迷った経験から、世の中を最適化する研究へ
地下街で迷って目的地に着けず、「屋内測位技術」を開発!
私の研究の原点は、大学生のとき、不慣れな札幌の地下街で道に迷ったこと。カーナビのようなツールがあれば便利そうだと思って、Wi-Fiなどの無線信号を使った「屋内測位」の開発に取り組みました。これは、GPSの電波が届きにくい屋内で、人やモノの位置を正確に把握するための技術です。私の研究分野でいうと、IoT技術にあたります。
現実と仮想の世界をつないで社会をより良く
屋内測位技術は、道案内だけではなく、地下街やショッピングモールの混み具合や人の流れ、医療機関のスタッフの動線など、いろいろなところで応用が効きます。研究を続けるなかで、実際の現場のデータを集めて、人やモノの配置、建物内の経路などを最適化できればいいなと思うようになりました。
そうはいっても、実際の現場で実験するわけにはいきません。そこで、社会シミュレーションの研究を始めたのです。
最終的には、現場のデータをとってきて、シミュレーションで最適化して、それをもとに現場を改善していくというふうに、IoT技術と社会シミュレーションによって現実世界と仮想世界を結びつけて、社会をより良くしたいと考えています。

未来の学生に向けてのメッセージ
「私は何をするべきか」を考えてみよう
私が担当する「エッジデバイス演習」では、データの収集や処理を行う機器の開発やIoT技術を、「社会シミュレーション演習」では、集めたデータをシミュレーションする技術を教えます。
そして、習得した技術を用いて、自分の興味のある現実の問題に取り組んでもらいます。そのときに大事なのが、自分の興味。それが研究の原動力となるのです。
技術はいつか古くなって使われなくなるかもしれない。でも、問題に対する考え方や取り組み方は、どんな仕事にも役立ちます。「私は何をするべきか」を考え続けて、私たちと一緒に社会をより良く仕組みをつくっていきましょう。
※所属・役職などはインタビュー当時の情報となります。

