#RESEARCH

地球の未来がわかる?超温暖化「金星」の謎に迫る!光学リモートセンシング

2025.03.21
この記事について
明け方の東の空または夕方の西の空に明るく光る金星。地球と金星は約46億年前に誕生し、大きさや質量、太陽からの距離が似ていることから「双子星」とも呼ばれています。しかし、その環境は地球と全く異なる変遷をたどりました。今回は、金星探査の歴史や金星の研究について、情報大ならではの魅力について、システム情報学科の佐藤先生にお伺いしました。

【佐藤 隆雄准教授】
JAXAの金星探査機「あかつき」のプロジェクトメンバーとして、研究だけでなく衛星運用にも従事。最近では、日欧共同水星探査機「BepiColombo」や火星衛星探査計画「Martian Moon Exploration」にも関わっている。

地球と金星。似て非なる「双子星」

宇宙惑星科学について先生の研究内容を教えてください

ハワイ観測所にあるすばる望遠鏡やJAXAの探査機を活用し、金星など太陽系惑星の大気や雲の構造を研究しています。
具体的には、可視光や赤外線といった電磁波を使って観測した「光学リモートセンシングデータ」を解析し、観測で得られた結果を再現する大気や雲のモデルを「大気放射伝達シミュレーション」を用いて調べています。

すばる望遠鏡(光学赤外線望遠鏡)

金星はどのような惑星?

金星と地球は約46億年前に誕生し、大きさや質量がほぼ等しく「双子星」と呼ばれています。
しかし、金星の地表面気圧は地球の約90倍で非常に厚い大気を有しています。そのほとんどが二酸化炭素で構成されており、硫酸でできた厚い雲が全球を覆っています。地球の大気に占める二酸化炭素の20万倍以上の量を持つ金星では、二酸化炭素による強い温室効果のため、地表面温度は約460度にも達します。

すばる望遠鏡の中間赤外撮像装置で観測した処理前の金星画像
※分かりやすいように疑似的な色をつけています
すばる望遠鏡の制御室での記念写真(右から3番目が佐藤先生)
一方で、地球は穏やかな環境を維持していますね。

地球が現在のような環境を保持している理由としては、液体の水(海)の存在が大きいですね。原始地球では金星と同様に非常に多くの二酸化炭素が大気中に存在していたと考えられています。しかし、地球では水が液体として存在することができたので、大気中の二酸化炭素が海に溶けて石灰岩を形成し、海に閉じ込めることに成功しました。一方で金星は、水が蒸発して非常に乾燥した惑星になってしまったために(最初から水がなかったかもしれませんが)、そのプロセスが起きなかったと考えられています。

金星の研究を通じて、地球の未来がわかる

金星は「温暖化が極限まで進んだ惑星」とも言われています。この研究を通じて、地球の温暖化や気候変動について、新たな知見が得られる可能性があります。金星研究は、私たちが地球環境の未来を考えるうえで非常に重要なヒントを与えてくれるでしょう。

金星研究が始まったのはいつ頃から?

冷戦時代のアメリカとソ連の宇宙開発競争が盛んだった頃、特にソ連が金星探査に力を入れていました。「べネラ」という探査機シリーズが世界で初めて金星の地表面に着陸し、その過酷な環境を記録することに成功しています。一方アメリカでは「パイオニア·ヴィーナス」という探査機が活躍し、金星の大気や地表面について多くの情報を得ることができました。
2000年代以降では、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ヴィーナス・エクスプレス」が2006年から2014年まで金星周回軌道から観測を継続し、金星がまだ多くの謎を秘めていることを示しました。そして2010年には日本の金星探査機「あかつき」が打ち上がり、紆余曲折しながらも2015年から貴重な観測データを提供するようになりました。
2025年現在、2030年代に主に金星の地表を調査する計画が欧米で進められています。金星は火星と比較すると探査が遅れている印象ですが、地球を宇宙に存在する無数の惑星の一つとして捉え、他の惑星との比較を通してその希少性を理解するうえで非常に重要な手がかりを与えてくれる惑星です。

金星探査機「あかつき」が切り拓く未知の世界

日本の金星探査機「あかつき」とは

金星では、高度70km付近に位置する大気や雲が、自転の約60倍の速さで自転と同じ方向(東から西に向かって)流れていることが知られています。この非常に興味深い現象は「スーパーローテーション」と呼ばれており、いくつかの維持メカニズムが提唱されていましたが、どの説が最も有効なのか研究者の中で意見が分かれていました。2010年に日本が打ち上げた金星探査機「あかつき」は、主にカメラによって大気や雲の動きを長期間にわたって調査することで、この謎に迫ることを目的としています。

金星探査機「あかつき」搭載の中間赤外カメラと紫外イメージャで撮影した金星
雲頂で観測された弓状模様(Fukuhara et al., 2017)
紫外イメージャで撮影した金星の雲頂模様 ©JAXA
2μmカメラで撮影した金星の雲層下部模様 ©JAXA

「あかつき」プロジェクトでの役割

 「あかつき」が取得したデータを解析するのはもちろんですが、科学観測計画の立案や探査機運用にも携わりました。
 科学観測計画とは、「どのタイミングでどの観測装置を使って金星を観測するか」を決める作業です。科学者たちの要望と技術的な制約を調整しながら、最適な観測スケジュールを作成していました。実際に自分が決めた計画を探査機に送るコマンドに変換し、探査機を運用するというのはなかなかできる事ではないので、とても貴重な経験になりました。

研究の先の未来、宇宙はもっと身近になる

私の研究は基礎科学の一部なので、社会に直接的な変化をもたらすことはないかもしれません。ただ金星のような温暖化が進んだ惑星を研究することは、地球環境の変化を考えるうえで新しい知見を提供する可能性があります。またAIを使った観測データの解析や、小型衛星による低コストの探査ミッションが広がることで、宇宙がさらに身近なものになるでしょう。
「ちょっと、宇宙に行ってきます」が現実になる日も、そう遠くはないかもしれませんね。

「好き」が「学び」に変わる。自分らしく挑戦できる環境

佐藤ゼミのテーマ

私のゼミでは、金星探査機「あかつき」のデータを用いた雲追跡風の解析といった宇宙科学に関連するテーマに加え、衛星やドローンデータを活用したスマート農業やディープフェイクを利用した画像識別技術の研究など、多岐にわたるテーマを扱っています。学生たちがそれぞれの興味を活かしてテーマを選び、主体的に取り組む姿勢を重視しています。

情報大ならではの強み

 一番の魅力は、学生の興味を最大限尊重する方針で教育を行っている点です。他の大学では、教員や先輩の研究を引き継ぐ形が一般的ですが、情報大では学生が自分のやりたいテーマに挑戦できる環境を整えています。
また、小規模な大学でありながら、天文学・宇宙惑星科学・地球環境科学など、幅広い分野を専門にする教員が揃っています。
さらに基礎科学から応用研究まで幅広く取り組んでいるのも特徴です。

高校生へメッセージ

 宇宙は冒険心をくすぐる分野でありながら、地球や地域社会に応用できる広がりのある分野です。金星研究のような壮大なプロジェクトから、学生一人ひとりが主役になれる教育環境まで整っています。
ぜひ私たちと一緒に新しい世界を切り拓きましょう!

北海道情報大学 総合経済学部(変更前:情報経営学部) システム情報学科 佐藤 隆雄 准教授
研究分野
宇宙惑星科学。地上光学望遠鏡や探査機を用いた惑星大気研究を行う。
略歴
東北大学大学院理学研究科教育研究支援者、情報通信研究機構電磁波計測研究所研究員、
日本学術振興会特別研究員(PD)、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)プロジェクト研究員などを経て本学へ。
日本地球惑星科学連合、地球電磁気・地球惑星圏学会に所属。
教員の紹介ページ
System 総合情報学部
システム情報学科 ※2
REASION 未来の暮らしを 豊かにする 
ICT技術者へ。
ICTサービスは、生活のあらゆるシーンに欠かせないものとなりました。また、人間に代わってAIが判断を行ったり、カーナビや気象予測などでGPSや衛星画像が身近に活用されています。これらの開発・運用にはシステムエンジニア、AIエンジニア、宇宙情報の専門家が欠かせません。本学科では、暮らしの豊かさに貢献する高度なICT技術者を育てます。
総合情報学部 システム情報学科 ※2

※2 2026年4月 経営情報学部から学部名称変更予定(構想中)

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